創薬研究の流れ
疑問を持つ女性読者

「創薬研究って何をどういう順番でやっていくの?」

「創薬研究の中で、プログラミングはどういうところで役立つの?」

そんな疑問をお持ちの皆さんへこの記事を書いています。

僕は大学が工学部だったこともあり、製薬企業に入った当初は、創薬研究がどういう流れで行われるのか、イメージが全然わきませんでした。

そんな僕でも、創薬の現場で研究経験を積み重ねる上で、創薬研究の各ステップを自然に理解できるようになり、それと同時にプログラミングの活かし方も分かるようになってきました

この記事を読めば、創薬研究にどういう過程(フェーズ)があるのか、プログラミング技術をどう組み込むことができるのか、理解することができます

創薬標的(創薬ターゲット)の探索

創薬研究の第一ステップは、新しい薬で生体内のどこを狙うのか、を設定することです。

多くの場合は生体内の特定のタンパク質を阻害、あるいは活性化させることで病気を治すわけですが、どのタンパク質をターゲットにすればよいのかを決めることが第一関門になります。

どんな情報に基づいて創薬標的を探すのか、ということについてはいくつかのアプローチがありますが、一つのやり方として病気の時と健康な時とで、どんな遺伝子やタンパク質の発現量や活性が異なっているかを調べるということが考えられます。

「オミクス解析」と言われることもありますが、あらかじめ目星を全くつけずに体内にある遺伝子やタンパク質全てを対象に、量的な変動がないかを解析してみて、量的な変動が見られたところが病気と関わりがあるのではないかという仮説を立てて進めていく研究アプローチになります。

このオミクス解析は、膨大なデータを解析することが必須になってくるので、プログラミングや機械学習が必要な場面が多く出てきます

ヒット化合物の創出

創薬標的が決まったら、次はそのターゲットに対して薬理活性を示す化合物の探索が始まります。

ハイスループットスクリーニング(high-throughput screening: HTS)によって、製薬会社が保有する化合物ライブラリの中から、標的分子に対して薬理活性を持つ化合物を選び出します。

ここでも、ライブラリ全ての化合物をHTSにかけようとすると、化合物の数が膨大過ぎて現実的にアッセイを行うことができない場合もあるので、そういう場合は薬理活性がありそうな化合物を最初にざっくりと選んでおいて、その化合物をHTSにかける、というやり方をとる場合もあります。

薬理活性がありそうな化合物を選ぶときに、化合物の構造から、標的分子との親和性(相互作用のしやすさ)を機械学習によって予測することができれば、より効率よくヒット化合物をスクリーニング(ふるい分け)することができます。

ヒット化合物の選抜においても、プログラミングや機械学習によってより短時間で有望な化合物を掘り当てることができるようになることが期待されています。

化合物の最適化

ターゲットに対して薬理活性を有するヒット化合物が見つかったら、次はその化合物をさらに磨き上げていくステップに移ります。

薬というのは、単に効き目があればいいわけではなくて、飲んだ時に体内の届いて欲しいところ(標的部位)に届かないといけないですし、できるだけ長い時間体内にとどまって効き目を発揮しているのが望ましいです。

また、少しの量飲んだだけで副作用が出るのも困ります。

このように、効き目だけでなくその他の要員も含めてバランスのとれた化合物に最適化していく必要があります。

ヒット化合物の構造をもとに、修飾基をつけてみたりして、薬としてバランスのとれた化合物に仕上げていくわけです。

この時にどんな構造にすれば、薬として使える化合物になるのかということも、プログラミングなどを使うことで分かる場合もあります。

コンピューターの中で色々な構造の化合物を生成させておいて、それぞれが活性や薬物動態、安全性に関してどのような特徴を持っているかシミュレーションすることで、いちいち化合物を合成して実験して確かめるという手順を踏まなくても、短時間で最適な化合物の構造を導き出すことができるというわけです。

以上の過程を経て、「薬として使えそう」という手応えが得られたら、次のステップに移ります。

安全性試験

化合物を最適化してリード化合物を得たら、次はその化合物が身体にとって本当に安全なのかを確認するフェーズに入ります。

効き目が出る数十倍から数百倍の量の化合物を動物に投与するなどして、副作用が出るのはどれぐらいの用量からなのか、このまま臨床試験に進んでも問題は起こらないか、などを確認していきます。

この段階でも、化合物を投与した時に生体内で何が起こっているかを解析するオミクス解析が威力を発揮します。

生体に対して重篤な副作用がないことを確認できたら、このステップはクリアということになります。

ここまでで、非臨床試験は一通り終わりになり、臨床試験へと移っていきます。

臨床試験

ここから、健康な人や患者さんを対象にした臨床試験のフェーズに入っていきます。

第一相(フェーズ1)、第二相(フェーズ2)、第三相(フェーズ3)と分けられることも多いですが、流れとしては健康な人で重篤な副作用が出ないことを確認してから、患者さんに対して効き目があるかどうかを調べる、という流れになります。

ここで人に対しても副作用が少なく、効き目があることが確認できたら承認申請へと進むこととなります。

まとめ

この記事では、創薬研究の一般的な流れについて解説しました。

もう一度要点をおさらいしておきましょう。

  • 創薬研究の第一ステップとして、創薬標的(創薬ターゲット)をどのタンパク質にするのかを決める。
  • 創薬標的を決めた後は、標的に対して薬理活性を持つ化合物をスクリーニングする。
  • 薬理活性がある化合物が見つかったら、動態や副作用面でバランスが取れた化合物に仕上げていく。
  • 薬として使えそうな化合物が出来上がったら、たくさん飲んでも重篤な副作用が出ないか確認する。
  • 非臨床試験が終われば、臨床試験で健康な人や患者さんに対して副作用が少なく、効き目があることを確認する。

そして、創薬研究の各ステップでプログラミングが必要になることがお分かり頂けたと思います。

最近の製薬業界は、なかなか新しい薬が出せない状況に陥っています。

プログラミングを利用することで、そんな苦しい状況を打破できると期待されています。

製薬業界に革命を起こす人材になるために必要なスキルセットについては、以下の記事で解説しています。

これからの製薬企業研究者に必要なスキルセットとは?