バイオインフォマティクス
考える男性研究者

「最近『バイオインフォマティクス』ってよく聞くけど、どういう技術なの?」

「バイオインフォマティクスってなんだか難しそうだけど、製薬会社でどう使えるの?」

「バイオインフォマティクスの仕事をしている人って、具体的に何をしているの?」

「バイオインフォマティクスの仕事にアサインされてしまったんだけど、何をどう勉強すればいいの?」

こんな疑問を持っている人も多いのではないでしょうか。

僕も、大学の授業で初めてバイオインフォマティクスを勉強した時は、とにかく難しくて、なかなか理解できませんでした。

それでも今では、バイオインフォマティクスを専門知識の一つとして、製薬企業で研究の日々を送っています。

この記事では、最初はなかなか理解できなかったバイオインフォマティクスをどのようにして勉強し、今の製薬会社での仕事でどのように使っているか、紹介します。

この記事を読めば、バイオインフォマティクスをどのように勉強すればいいのか、製薬企業でどう役に立つのか、具体的なイメージを持てるようになります。

最近は、AI創薬やビッグデータ創薬が盛り上がりを見せてはいますが、どこの製薬企業でもバイオインフォマティクスは人材不足です。

この記事の内容が理解できれば、あなたも貴重な人材になれるチャンスをつかんだも同然です。

そもそも、バイオインフォマティクスって何?

バイオインフォマティクス(bioinformatics)というのは、「biology(生物学)」と「informatics(情報科学)」を合わせたことばで、日本語にすると「生物情報学」と訳されます。

要は、生命現象を情報科学的に解き明かす学問領域のことです。

といっても、イメージがわきにくいと思いますので、例を一つ挙げます。

例えば、糖尿病のラットと健康なラットがいたとしましょう。

それぞれのラットから採血をして、血液中に含まれる成分の量を測定するとします。

血液中に含まれる成分というのは、脂質だったり、アミノ酸だったり、糖分だったりします。

こうしたそれぞれの成分の血液中の濃度を、糖尿病のラットと健康なラットとで比較するわけです。

すると、健康なラットと比較して、糖尿病のラットで血液中濃度が高くなる成分や、逆に濃度が低くなる成分が出てきます。

一番わかりやすいのは、糖(グルコース)の濃度ですね。

糖尿病のラットの方が、健康なラットよりも血液中の糖の濃度(血糖値)が高くなるわけですね。

そして、血糖値の違いはよく知られていると思いますが、血糖値以外にも、血液中濃度の異なる成分があるかもしれません。

こうした成分は病気(この例では糖尿病)についてより深く知る手がかりになるわけです。

詳しくは以下で解説します。

バイオインフォマティクスは創薬研究にどう役立つの?

バイオインフォマティクスが製薬企業の研究のどういう場面で活躍するかというと、ずばり「創薬標的の発見」です。

というのも、バイオインフォマティクスは、人間の頭では想像もつかないような生命現象を教えてくれるからです。

まだ分かりにくいと思うので、もう少し詳しく説明していきましょう。

まず、「創薬標的(創薬ターゲット)」というのは、薬が作用するタンパク質などを指します。

薬というのは病気を治すため、身体の中にある特定のタンパク質を阻害したり、逆に活性化させたりします。

その、阻害したり活性化したりするタンパク質などのことを指して、「創薬標的」と言うわけです。

そして、創薬研究というのは、この「創薬標的」を探すことから始まります。

治したい病気があって、その病気を治すためにどのタンパク質を阻害(または活性化)したらいいのか、既にある薬とは違うターゲットで病気を治せないか、考えるわけです。

その薬が作用するターゲットをどこにするか考えるときには、生物学で研究されて明らかになっている生命現象などの知識がもとになってくるわけですね。

例えば、上で書いた糖尿病のラットの例で言うと、糖尿病になることで血糖値が上昇するので、血糖値の上昇に関わるタンパク質を阻害する薬を創ろう、といった風に考えるわけですね。

でも、もう気づいている人もいるかもしれませんが、このようにして考えられる創薬標的では新しい薬を創るのは難しいです。

なぜかというと、もうすでに誰かが(どこかの会社が)同じようなアイデアで薬を創っていて、それが市場に出回っているからなんですね。

なので、今まで誰も思いつかなかった創薬標的で薬を創る、というのが製薬会社に常に求められる使命になります。

でももう、人間の頭で考えられる創薬標的は出尽くしていて、新しく見つかるものなんてなかなかない・・・そんな状況になってきています。

そこで活躍するのが、バイオインフォマティクスです。

バイオインフォマティクスは、上の糖尿病のラットの例でも書いたように、とりあえずは生物学の知識は必要とせずに単なるデータの比較(ラットの血液中成分の濃度の比較)だけで、病気に関わる成分を探すというアプローチになります。

なので、これまでの生物学で得てきた知識をもとに仮説(この病気はこのタンパク質で制御されているから、このタンパク質を狙えば治るはず)を組み立てて創薬研究をスタートするのではなく、「なんか知らないけどこのタンパク質がこの病気と関わっていそうだから、ちょっと詳しく調べてみて、本当に関係ありそうなら薬のターゲットにしよう」という考え方をするのがバイオインフォマティクスなわけです。

これまでとは真逆の考え方ですね。

このようなアプローチをとることによって、今までに人間が持っていた知識、経験では思いつきもしなかったような創薬標的が出てくるのがバイオインフォマティクスの強みで、これからバイオインフォマティクス発の創薬標的がたくさん出てくる時代になるはずです。

また、これまではなかなか治療するのが難しかった難病でも、バイオインフォマティクスの力で治療方法が見つかることも期待されています。

病気で苦しむ人たちを助けるという、僕たち製薬企業研究員の使命を果たすために不可欠な技術となるのがバイオインフォマティクスなんです。

バイオインフォマティクスはどのように勉強すればいい?

これからバイオインフォマティクスを勉強しようという人には、まずどんなことを勉強しないといけないのか概要をつかむことをおすすめします。

そして、その概要をつかむのに最適なのは、日本バイオインフォマティクス学会が出している「バイオインフォマティクス入門(慶應義塾大学出版会)」です。

この本は、2ページで一つのセクションになっていて、解説の後には練習問題(バイオインフォマティクス技術者認定試験の過去問)が載っています。

短時間で完結した内容が勉強できるので、毎日少しずつでも進められるのがおすすめです。

この本について詳しくは以下の記事で解説していますので、読んでみてください。

「バイオインフォマティクス入門」は初心者の独学におすすめ!

バイオインフォマティクスの将来性は?

バイオインフォマティクスは、これからの創薬研究の中心技術になっていくと僕は確信しています。

上でも書きましたが、従来の創薬標的の探し方では、新しい薬のターゲットになるものはほとんど見つからないようになっていて、この状況を打破するためにはバイオインフォマティクスの技術が不可欠だからです。

製薬会社の中でもバイオインフォマティクスの知識が必要な仕事は今後どんどん増えていくと予想しています。

薬を創るときの考え方にバイオインフォマティクスのアプローチを積極的に取り込もうという動きが年々広がっているように感じます。

そんな中でも、バイオインフォマティクスの専門知識を持つ人材はなかなか育たないという製薬会社が多いというのが現状ではないかと思います。

バイオインフォマティクスに関しては今後人材不足が課題になると予想されるので、逆に言えばバイオインフォマティクスのスキルを身につけることは製薬会社に就職して活躍するうえで大きなアドバンテージになることは間違いないです。

まとめ

この記事では、バイオインフォマティクスの創薬研究への応用や、初心者向けの勉強方法について解説しました。

要点をおさらいしておきましょう。

  • バイオインフォマティクスは、創薬標的を見つけるのに使える。
  • バイオインフォマティクスの勉強は、「バイオインフォマティクス入門」から始めると良い。

この記事の内容が理解できれば、バイオインフォマティクス研究者への第一歩を踏み出したと言ってよいと思います。

「バイオインフォマティクス入門」については、別の記事で解説予定です。